大震災・原発事故…8・15靖国ルポ(東京新聞)

大震災・原発事故…8・15靖国ルポ
(東京新聞「こちら特報部」8月16日)

 東日本大震災で多くの犠牲者を出したなか、終戦記念日を迎えた東京・九段北の靖国神社。ことしは津波被害と原発事故の惨禍を、戦後の国難に重ね合わせ、復興を願う人も多いだろう。追悼と平和へのさまざまな思いや誓いが去来する靖国の一日をルポした。

 5時 第二鳥居の先にある神門前。うっすらと差し込む朝日に、暑い一日を予感する。“一番乗り”は「午前三時に着いた」という広島県福山市の無職男性(68)。「一度来てみたかった。金がなく、昨日の朝から鈍行を乗り継いできた」

 5時10分 門の前に座り込んでいた大学生のカップルは「日付が変わるまで世田谷で酒を飲み、『終戦の日じゃん』って気付いて歩いてきた。まあ好奇心かな」。

 5時15分 江戸川区から歩いてきた予備校生池高貫太さん(18)は、「戦争についての是非はまだ答えが出ないけれど、鳥居をくぐっただけで『重み』を感じたね」と、友人と顔を見合わせた。

 5時40分 喪服姿の老若男女の一団約七十人が整列し、張り詰めた雰囲気が漂う。

 6時 厳かに太鼓が鳴り響き、きしんだ音を立てて開門。約百人が続々と拝殿へ向かう。

 6時10分 海軍の白い制服姿で中野区から来た深瀬昭彦さん(81)は目を潤ませて「兄とおじがまつられているので、毎年来ている。福島原発への対応に右往左往する菅首相では国のためにならない」と指弾。中年女性に「頑張ってください」と握手を求められる。

 6時30分 境内で「台風でも中止しない」地元のラジオ体操が始まり、軽快なメロディーに合わせ約四十人が汗を流す。

 7時5分 記者に「シャッターを押して」と声を掛けてきた元陸軍兵の江東区、佐藤初雄さん(89)。中国戦線で多くの仲間を失ったと訴え、「国のために犠牲になった人を敬えないような総理大臣はバカたれだっ」。

 7時45分 「見に来ただけで、参拝はしていない」と、シンガポールの女性宣教師レジーナ・ウォンさん(33)。「靖国神社は遺族の慰めになる大切な存在のようですね。私は心の中で『皆さんに主のご加護がありますように』と祈りました」

 8時20分 友人と展示施設・遊就館の開館を待つ埼玉県秩父市の男子中学生(15)は「初めて来たが、畏敬の念を抱いた。閣僚は参拝して。将来は国会議員になって国を変えたい」。直後に目の前を丸川珠代参院議員が通り「足が震えた」。

 8時50分 参拝を終えた小泉進次郎衆院議員が到着殿を出て車に乗り込む。カメラを構えた群衆から「ありがとう」「よくやった!」のコール。

 9時10分 神門の前に「靖国神社に参拝する全国地方議員の会」の六十二人が到着。四列縦隊になって「海行かば」を熱唱、万歳を三唱した。

 9時40分 日差しが激しさを増し、麦茶の無料配布コーナーは黒山の人だかり。拝殿の前には、いつの間にか長蛇の列が。家族連れも増える。

 10時 神社が用意した百羽の白いハトが、英霊に向けた「ありがとう」の掛け声で空へ。

 10時30分 元軍人や遺族から戦争体験を聞き取っていた宮腰祐巳子さん(21)、梅里奈央さん(21)はマスコミ志望の大学生。この日の“取材”結果によると、政治への不満とマスコミ不信が多く聞かれたという。「体験はそれぞれで、平和主義的な報道でひとまとめにされてはたまらない、と思うのかもしれない」

 10時45分 超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の面々が靖国会館へ集結。

 11時 参道で「戦没者追悼中央国民集会」。フィリピン・ルバング島で終戦後三十年間近くも潜伏した元少尉の小野田寛郎氏は「靖国神社は日本人か、そうでないかの踏み絵だ」。尖閣諸島の中国漁船衝突映像を流出させた元海上保安官の一色正春氏の姿も。

 11時40分 参集殿近くで「昔の日本に戻そう」と軍服姿の男性が演説。参拝の男性(59)は「官僚が日本をダメにした。福島原発と一緒だ」。

 12時 時報に合わせて黙とう。約一分間、境内にせみ時雨だけが響く。

 12時10分 妻と木陰で休む永嶋寛延さん(81)は長崎市在住の元教師。青森市に単身赴任の次男、大震災で被災した宮城県塩釜市にいる次男の妻、孫と十六日に長野県内で合流するという。いとこが戦死し「無念の死を遂げた大多数の方々に追悼の意をささげた」。

 12時33分 モーニング姿の石原慎太郎都知事が到着殿へ。参拝者から歓声が起こる。

 13時20分 空調の効いた遊就館は大混雑。「暑さを避けようと入ったが勉強になった」と神奈川県から来た二十代のカップル。父母と展示を見ていた埼玉県の小学四年男児は「戦争は怖い」。

 13時45分 救急車が到着し、女性を搬送。境内はうだるような暑さ。

 14時40分 ♪あのふるさとへ帰ろかな…。笛を吹いていたのは、近くに住む中村宗平さん(85)。「シベリアに三年抑留された」。流ちょうなロシア語を操る。

 14時45分 笹川のぶ子さん(69)は、父の村田洸(たけし)さんがシベリア送りとなり、帰らぬ人に。終戦時、父は二十三歳。今も写真を肌身離さず持ち歩く。

 15時 埼玉県の宮川綾乃さん(30)と、妹の松本沙知乃さん(29)は「日本は危ない状況。護国に目覚めた」。連れてきた子どもの胸には、南京大虐殺否定論などを繰り広げる保守系団体の名前が書かれた日章旗バッジ。

 15時25分 イタリア人男性のアンジェロ・デローザさんは靖国神社の映画を制作中。「撮影を始めた五年前より、若者のナショナリズムが強くなった気がする。大震災後、『がんばろう日本』というスローガンで、国民を同一化させようとする力が強まっている気がして、ちょっと心配」

 16時 地下鉄九段下駅近くの交差点が騒然となり「天皇陛下万歳」と人々が叫ぶ。「バカな左翼を追い出してやった」と興奮する男性。

 16時30分 JR水道橋駅前を、「靖国NO!」「天皇制やめて」と書かれたプラカードを持った人々のデモが通過。

 17時40分 埼玉県川越市のフリーター伊藤万純さん(18)は「戦争は想像の世界でしかない。だから、きちんと参拝したい」。連れの自由業杉本昭彦さん(33)は着物姿で「今日は静かに参拝すべき日。大騒ぎする人たちは、エセ右翼とエセ左翼に見えてしまう」。

 19時 閉門。靖国神社によると、参拝客は十五万六千人で、昨年より一万人減の「平年並み」。

<デスクメモ> 今夏の灯籠や送り火は切ない。数多くの初盆は先の大戦以来だ。陸前高田の被災松は無念な話だが、東北は古く蝦夷(えみし)と侮られ、朝廷や覇権の征伐に対抗した。服従しない意味で「まつろわぬ民」の血を引くはずだ。京の五山に振り回されず、地元で近親者の御霊(みたま)を送り出したい。 (呂)




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